大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(あ)3221号 判決

少年 H・K(昭一九・一一・二五生)

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人大槻竜馬の上告趣意第一点は、違憲(三一条)をいうけれども、実質は事実誤認を前提とする単なる法令違反の主張であり、同第二点は単なる法令違反の主張であり、同第三点は事実誤認の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

大阪高等検察庁検事長代理次席検事岡正毅の上告趣意は、判例違反をいうけれども、原判決は、所論引用の判例と相反する法律判断を示しているものではないから、所論は前提を欠き、上告理由として不適法である。

しかし職権をもって調査すると、原判決は、第一審判決を破棄、自判するにあたり、昭和一九年一一月二五日に生まれた被告人を、当時すでに成年に達したものと誤認して、被告人に対し本来適用すべき少年法五二条一項を適用せず、定期刑である懲役一年六月の実刑を科した違法のあることが、記録上明らかであり、右の法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明白であって、原判決を破棄しなければいちじるしく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条本文にしたがい、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)

参考一

弁護人大槻竜馬の上告趣意

第一点原判決には憲法の違反があり、且つ判決に影響を及ぼすべき事実の誤認及び法令の違反があって、破棄しなければ著しく正義に反する。

原判決は控訴申立理由中の量刑不当の主張をいれ、「本件は年齢一三歳及び一四歳の純情無垢の中学生を二人までも輪姦したという悪質な事犯でその犯行の態様(殊に一人には睡眠薬を与えて強姦している)罪質、ただ自己の獣欲を満足させるため被害者に対し拭うことのできない汚辱を与えたこと、被告人らの行為によって受けた被害者の精神的苦痛と打撃を考慮すれば到底刑の執行を猶予すべき事案であるとは思われないが、被害者○松に対しては一〇万円、○砂に対しては一五万円の慰藉料を支払い、被害者側は被告人の処罰を求めていないこと、本件犯行後自己の犯した罪の重大性に気付き参禅と修養に努め、改悛の情が認められ、これまで非行歴もなく、満二〇歳に達したばかりの若年であること等の、被告人に有利な諸事情を参酌すると原審の科刑は重きに失したものと思われるので原判決は破棄を免れない」として第一審判決を破棄し、被告人を懲役一年六月に処しているが、被告人が昭和一九年一一月二五日生れであることは被告人の供述調書等によって明白であり、原判決も冒頭にはこれを摘記しているところであるから、昭和三八年一二月二日における原判決宣告の日には満一九歳に達したばかりであるのに、原判決はその計算を誤り少年であるにかかわらず成人と誤認したため少年法第五二条を適用しなかったのである。

憲法第三一条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又その他の刑罰を科せられない。」と規定しており、本件において原審が少年法第五二条を適用しないで少年である被告人にいわゆる定期刑を言い渡したのは法律に定める手続によらないで刑罰を科したことになって憲法の右規定に違反するばかりでなく、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認、及び法令の違反があって、破棄しなければ著しく正義に反する場合にも該当するのである。

第二点〈省略〉

第三点〈省略〉

参考二

検察官の上告趣意

原判決は、第一審判決が強姦致傷の事実を認定して被告人を懲役二年以上三年以下に処する旨の不定期刑を言渡したのを破棄して、被告人を懲役一年六月に処する旨の定期刑を言い渡した。この判決は、少年に対して不定期刑を言い渡すべき場合であるにも拘らず定期刑を言い渡した点において、後記最高裁判所判例と相反する判断をした違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法第四一〇条第一項により破棄すべきであると思料する。

即ち原判決は、第一審判決が認定した強姦致傷の事実を刑法第一八一条にあたるものとし、同条所定刑中有期懲役刑を選択した上、これに併合罪の加重および酌量減軽を施したのであるから、懲役一年六月以上一〇年以下の範囲内で処断すべきものである。そして被告人が昭和一九年一一月二五日生れの少年であることは、原判決の明示するとおりであるから、原判決は少年法第五二条第一項本文の規定に従って被告人に対し不定期刑を言い渡さなければならないのである。然るに原判決が前記のとおり定期刑を言い渡したのは昭和二七年一二月一一日最高裁判所第一小法廷が昭和二六年(さ)第四号事件につき言い渡した判決(最高裁判所裁判例集刑事第七〇号四九三頁)中の「ところが被告人は昭和六年一一月二六日生であること記録により明らかであるから、同二六年一月一〇日の本件第一審判決言渡の当時は未だ二〇歳に満たない者であるので同月一日から適用されることになった改正少年法二条の規定によって少年であり(同法附則六八条)従って同法五二条の適用を受ける筋合であるといわなければならぬ。されば本件において第一審裁判所は同条を適用して短期は五年、長期は一〇年を超えることができない不定期の懲役刑を科すべきものであること多言を要しないとろであるから、不定期刑を科せず且つ短期の限度五年を超えて懲役六年の定期刑を科した第一審判決は明らかに違法であって、これを是認した原判決また違法といわなければならぬ。」との判断と相反する判断をしたものといわざるを得ない。

よって原判決の破棄を求めるため、上告に及んだ次第である。

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